器に宿る「いのち」
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    5月に奈良旅行に行った際、初日に「ならまち」にある

    和風カフェ「たちばな」に寄りました。

    神戸に住む兄の知り合いの方がご家族で営む、

    とても気持ちの良いカフェです。

    下の写真は、「たちばな」のHPから拝借したものですが、

    細長い店内は入って左側が喫茶スペース、

    右側が陶磁器の展示スペースになっています。

    (販売もしています。)




    ご主人が陶磁器が好きな方で、ご自分の足で探した器を展示しています。

    私たちが訪れた日はちょうど二階で「加藤泰一陶展」をやっていました。


    「どうぞどうぞ」というご主人の言葉に誘われて2階に上がった私は、

    そこで出会ってしまいました!


    加藤泰一氏作の貫入の茶飲み茶碗です。



    夫婦茶碗が欲しかったのですが、

    「ふたつと同じものはできないのですよ」という言葉にそれは断念。

    私が選んだのは鮮やかな青磁に貫入が入った一品(写真右)。

    釉ごしに透明な貫入が細かく入っています。

    もう一品は青磁の色はやや薄いのですが、

    窯から出したあと、ベンガラの液に浸けて

    貫入に染み込ませたのが「いい味」を出しています(写真左)。


    貫入は、釉と素地の収縮率の差により、焼成後の冷却時に生ずる

    釉のひびです。


    釉薬の種類によっても違いますが、

    通常の陶器は素地の上に施釉してから1200度から1300度の

    高温で焼かれます。

    その際、釉薬は溶けてガラスのような層(SiO2)になって

    陶器の表面を覆います。


    窯から出した後は次第に冷えていきますが、

    その時素地と釉薬の収縮率の差が大きいと(10%以上)、

    釉薬がひびのような状態になって固まります。

    これが貫入です。


    驚いたことに、貫入は窯から取り出して

    大分日にちが経ってからも入るそうです。

    夜、静かなひとときに「ポン!」とか「ピン!」という

    貫入が入る音が聞こえるそうです。

    窯から生まれた器が成長している、と感ずる瞬間ですね。


    西洋的な感性からいえば、

    貫入はただのひび、いわば不良品とみなされてしまうでしょう。

    でも、日本人は違うのです。

    その変化を「成長」と捉えます。


    やがて使うほどにお茶やお酒の色が器に移っていきます。

    それを先人は「育つ」と言って、ことのほか愛でました。


    器を我が子を育てるように愛情を注ぎ込んで使う、

    細やかな感性が忍ばれます。

    器にも「いのち」が宿ると考えたのでしょう。

    だからこそ、どんなものにも「もったいない」という気持ちで

    接したのでしょうね。


    今、私は毎日この茶碗でお茶を飲んでいます。

    ベンガラ色の貫入がある方は、主人が

    「こっちがいい」というので、譲り、

    私は青い方を使っています。


    「紅茶にしようかな」と思う時でも

    この器が使いたくて、つい緑茶を飲んでしまいます。

    この茶碗がどんな風に育つか、

    今から楽しみでなりません。


    器を変えるだけで、

    お茶を飲むことが、こんなにも楽しくて

    心に「ゆとり」を運んでくれるものになるとは。











    posted by: shigemi11 | - | 16:52 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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