イギリス 旅随想―エジンバラからロンドンまで その6
0
     

    私がイギリスで一番行きたかったところ、それはコッツウォルズ。

    コッツウォルズは、ほぼイギリスの中央部に位置する標高300mほどの

    丘陵に広がる一帯で、特別自然美観地域に指定されています。

    「コッツウォルズ」とは「羊の丘」という意味だそうです。


    その名のとおり、コッツウォルズは中世から羊毛の交易で栄えていました。

    現在でも中世のままの建物が随所に残され、

    おとぎ話の世界に紛れ込んだような錯覚を起こしそうです。

    中世からの建物は、はちみつ色の石灰岩「コッツウォルズストーン」で

    作られ、外壁や窓辺を飾る花によく映えています。


    私たちがコッツウォルズの中で最初に行ったのは、バイブリー。

    ウィリアム・モリスが「世界一美しい村」と絶賛した場所です。



    本当に美しい村でした。牧歌的というか、詩的というか、

    ゆったりした別の時空間なのです。

    カモの親子が仲良く泳ぐ小川は、清らかに澄んで、

    水中の藻がまるでダンスをしているように、優雅に揺れています。

    誰かがミレーの「オフェーリア」の絵に描かれた小川のようだ、と

    言っていましたが、本当にその通りです。


    樹齢100年を超えるであろう川辺の柳は、その豊かな枝葉を

    風に遊ばせています。



    せせらぎの音を聞きながら、いつまでもここでボーっとしていたい、

    そんな思いにさせる場所です。

    川べりのカフェでソフトクリームを食べながら、売店の棚を眺めていました。

    モリスがデザインした模様をプリントした色とりどりのテーブルセンターが

    所狭しと並べられています。



    これは、あの柳の葉をデザインしたに違いありません。

    今しがた自分が見とれていた、風と戯れるように揺らぐ葉そのままです。

    100年以上前、モリスもあの柳の木の下で枝葉のダンスを見上げていたのでしょう。



    でも、一番の売れ筋はこの1枚でした。


    鮮やかな花と葉の下には、やはり柳が描かれています。


    名残惜しみながら、次なる場所に向かいました。


    バーフォード。なだらかな坂道にあるこの街は、歩いてきた道を振り返ると、

    箱庭のように、丘と街並みがいっぺんに見渡せます。







    道沿いのお店も花が溢れ、素朴な中にも可愛さが感じられます。

    あるリネン類のお店の前に小さな黒板が出してありました。

    見ると、こんな事が書かれています。

    ”Your husband is calling to buy whatever you want."

    (ご主人があなたを呼んでいますよ、欲しいものを何でも買っていいって。)

    なんという素朴なPOPでしょう(笑)。


    坂道の中腹に、中央分離帯のようなゾーンがあり、

    そこにベンチがあったので座ってみました。




    観光客目当てのお店は、外観は可愛いのですが、

    残念ながら「買いたい」と思う品物はありませんでした。


    次にボートン・オン・ザ・ウォーター、ストウ・オン・ザ・ウォーター

    というコッツウォルズ屈指の街に行ってみました。

    ストウ・オン・ザ・ウォーターは、骨董の街としても有名です。



    ボートン・オン・ザ・ウォーターは、

    「オン・ザ・ウォーター」というくらいですから、

    水辺の景色が素敵でした。


    町外れ近くに、街全体の20分の一の正確なジオラマパークがあり、

    行ってみてびっくり。

    個人の家の庭の置物や植え込み、小屋の動物まで細部にわたって再現してあるのです。

    「これではプライバシーが丸見えだなぁ」と、

    彼我の違いにしばし感慨を覚えました。


    ボートン・オン・ザ・ウォーターの目抜き通りを歩いている時です。

    濃紺のウールのジャケットを着てステッキを持ち、

    いかにも英国紳士といった風情のダンディな白髪の老人が

    私たちに近づいてきてこう言いました。

    「失礼ですが、あなた方は中国人ですか、それとも日本人ですか?」

    「日本人です。」と答えると、その紳士は急に目を潤ませ、

    私たちの手を取って、「おお、おお・・・。」と言ったまま、

    感慨深げにその場に立ちすくんでしまったのです。


    一体どうしたのだろう、と困惑してしまいました。

    紳士はいつまでも私たちの手を放そうとしません。

    ふと胸元を見ると、色々なバッジや紋章が付いています。

    その一つにひときわ目立つ軍艦のバッジがあったので、

    「もしや海軍の退役軍人かしら」と勝手に想像して言いました。

    「日本の海軍は英国の海軍を見習って作られました。

    私たちは、とてもあなたのお国に感謝していますよ。」と、

    日露戦争の頃を思い浮かべて、適当に言ったのですが、

    紳士はさらに感激したようで、目にうっすら涙を浮かべているではありませんか!


    当てずっぽうで言ったことがそれほど的外れではなかったので

    ほっとしましたが、何とかこの場を切り抜けなければ先へ行けません。

    しばらく感謝の言葉を並べ立てて、ようやく紳士の手をふりほどき、

    別れを告げました。


    やれやれ、と再び町並みを歩いていると、

    あることに気づきました。

    どの家も小さいのです。

    建物の高さが低いだけでなく、ドアなどは、どう見ても

    イギリス人が出入りするには高さがなさすぎです。









    この写真を見てください。

    主人は175cm位の身長ですが、ドアは明らかに160cmあるかなしかです。

    「おかしいね。なんでこんなに低いんだろう。」

    「小人の家みたいね」などと、家の前で話していると、

    リチャード・ギアによく似た白髪交じりの中年男性が

    「どうしたのですか?」と話しかけてきました。


    「随分ドアが小さいなと話していたんですよ」と言うと、

    「そうでしょう。実は私たちのおじいさんはこの位しかなかったんです。

    昔の人は小柄でしたからね。」と言って、

    本人の肩の高さ、大体165cmあたりに手をかざしました。

    「でもあなたは今背が高いですよね。サクソン人ですか?」と

    主人が禁断の質問をしてしまいました。

    男性は一瞬驚いた顔をしましたが、

    「そうです。まあ、昔より食べ物が良くなったからでしょうね。」と言って

    足早に去って行きました。

    旅はこういう予期せぬ出会いがあるので、面白いですね。


    色々あったコッツウォルズ紀行でしたが、楽しく幕を閉じました。





            (つづく)







     
    posted by: shigemi11 | - | 16:17 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









    この記事のトラックバックURL
    http://blogs.elavita.jp/trackback/22
    トラックバック